夜の外側 イタリアを震撼させた55日間/政治と生活、思想と信条

サスペンス
This article can be read in about 5 minutes.

夜の外側 イタリアを震撼させた55日間

Esterno notte/監督:マルコ・ベロッキオ/2022年/イタリア

マスコミ試写で鑑賞。公開は2024年8月9日です。マルコ・ベロッキオ監督作品、初めて観たかなと思いましたが、今年『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』(2023年)を観ていました。

夜の外側』は340分あるので尻込みしました。さすがにちょっとね。でも、公式サイトに載っていた写真がかっこよかったことと、私が今まで観た中で一番長い映画になるだろうと思って観ました。今、公式サイトを見返してみたら、私が見たのはティーザーサイトだったようです。
「夜の外側 イタリアを震撼させた55日間」公式サイト|8月9日(金)より全国順次公開
人物相関図も載っているので、安心ですね!(私が今までに観た映画で、人物相関図が公式サイトに載っていた作品、まっさきに思い浮かぶのは『裏切りのサーカス』(2011年)です。でももう公式サイトなくなっちゃってた。10年以上経ってますからしょうがないですね。え、13年? え! こわ!)

なお、『夜の外側』を観るまでの人生で観た一番長い映画は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984年)の229分です。U-NEXTにあります。おもしろいよ。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」をU-NEXTで視聴

あらすじ:政治家誘拐事件。

ネタバレはありません。

この映画は、1話約60分の6部構成になっています。なので、長いは長いんですが、テレビドラマの一気見だと思えば観られるんですよね。


ワンカットめから映像がかっこよく、圧倒的でした。メガネでスーツのおじさんが3人並んでいるだけなんだけど、異様にかっこいいんですよ。上に貼った予告のサムネイルになっているかな。全体的に、黒の黒さが美しい作品だと思います。また、テンポがよくわかりやすく進んでいくので、置いていかれたり退屈になったりすることもありませんでした。私は映画にテンポの良さを求めすぎている気もします。

どこで出てくるのかは伏せますが、私がこの映画に興味を持つきっかけになった、モーロ(ファブリツィオ・ジフーニ)が木製の大きい十字架を背負っているシーン。

夜の外側

かっこよくない? かっこいいよね!

1 アルド・モーロ

モーロは毎朝同じ花屋で花を買い、自分の信条を貫き、話し合いで問題が解決すると思っているし、実際にそうしています。その様子から、この人は健全なのだろうな、という印象を受けます。

良き政治家であり良き父親であり良き祖父であり、しかし良き伴侶かと言うとどうかな? というところ。政治家として活動するにあたり、家族を犠牲にはしていないように思えます。でも、妻のことはどうかな。夜中にベッドへ潜り込んできては寝ている妻にあれこれ頼むのって、妻からしてみたら嫌かもですね。そりゃ妻も、「その話は明日にしてくれ」って言いますよ。彼女に関しては、彼女視点の部があるので楽しみです(今、1部ずつ観て書くということをやっています)。

2 内務大臣フランチェスコ・コッシーガ

時系列になっており、モーロの誘拐直後から始まります。モーロを父と慕っていたコッシーガ(ファウスト・ルッソ・アレジ)は、なんだかずっと調子が悪そう。大丈夫かなこの人は……。この人が捜査のトップだと、下は不安だろうと思ってしまいますね。この部は、セリフの端々に詩的な表現が目立つように思いました。

なかなか成果を挙げられず苛立ちがみられるところへ、予知者とかいう人物が妄言を吐いたりするんですが、どんな小さな可能性すら排除できない状況下にあります。というわけで予知者の言ったとおりに動いたり、アメリカの誘拐事件専門家を連れてきてあれこれ聞いたりします。コッシーガ、大変だね。がんばったね。

3 教皇パウロ6世

モーロと親しかった教皇パウロ6世(トニ・セルヴィッロ)は体調がだいぶ悪いようすです。モーロを救うために身代金を払うと言い出します。「テロ組織に大金を渡したら武器の購入資金にするだろうから駄目ですよ!」と言う者もあれば、「当然、払います」と言う者もおり、また、「共産党的にはそれはできない、秘密にしてくれるなら良いけど……」と言う者もいるわけです。

それでね、こんなふうに言っていいものかわからないけど、教皇、何も出来てない。出来てないどころか、事態を悪化させているおそれすらあります。これはいったい、どうなってしまうのでしょう……。

4 赤い旅団のメンバー、アドリアーナ・ファランダ

子持ちの女性アドリアーナ(ダニエーラ・マッラ)は、小規模な襲撃事件を任されるけれど、少し失敗してしまいます。このあたりから、「この人、さっき観たけど、どこで観たっけ?」というシーンがときどき挟まれるようになり、気になって見返したくなりました。でも見返していたら永遠に終わらなさそうなので、いったんね、いったん全部観ようと思います。

5 モーロの妻エレオノーラ

何不自由ない生活をしていても、それでも何かが足りないと思ってしまうのは人の性なんでしょうか。エレオノーラ(マルゲリータ・ブイ)も、生活に足りないものについて悩んでいました。そんな折、誘拐事件が起き、彼女に別の心労が重なっていくわけです。こんな状況下においても、彼女が言う新約聖書の有名なフレーズは家族たちを黙らせるに足るものでした。また、彼女がモーロに対してどう思っているのかが明確にわかり、なんだかちょっとホッとしましたね。マルゲリータ・ブイの気品ある演技が印象的でした。

6 ◯◯◯◯◯

大オチの部なので誰視点かは伏せます。◯の数は適当です。過去にあったこと、今あること、誰かの想像、理想、妄想、あるいは現実。それらすべてが入り混じり、ひとつの終わりへと突き進むわけです。つまりどういうことかというと、「さっき見たけどどこで見たっけ」「この映像は……どっち?」「結局あんたはそうなるの?」みたいなことがどさどさ起きるんですよね。いやー、見終わった瞬間に、最初から見返したくなりました。

1回観ただけでは全貌がわからないというわけではなく、大変、非常に、とっても、観客に優しく作ってあるんですよね。わかりやすい、テンポが良い、映像がリッチ、音楽も盛り上げてくるし、俳優陣の演技だって最高です。もっと時系列をめちゃめちゃにしてみたり、6部構成にせず340分一本勝負とか、視点を変えることさえもしない、っていうことも出来ると思うんです。でもそういうことをせず、観やすく作ってある。長さを感じないって言ったらウソになります。長いです。でも、まったくダレないので観られちゃう。Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下では、前後編170分ずつに分けて公開するようす。おすすめです!

Copied title and URL