ヘレディタリー/継承
Hereditary/監督:アリ・アスター/2018年/アメリカ
この記事は2018年に書いたヘレディタリー 継承/人はなぜ、死ぬと怖くなってしまうのか | 映画感想 * FRAGILEを修正し転載したものです。
試写で鑑賞。公開は2018年11月30日です。
あらすじ:おばあちゃんが死ぬ。
※ネタバレはありません。ストーリーにはほとんど触れていません。
本当に本当に怖いよ。グロはちょこっと。びっくりもちょこっと。でも怖い!
もうすぐ祖母が死ぬ。
これは本当のことで、夏前からそろそろなんじゃないかと言われてきた。親は遺産問題で姉妹間の関係が悪くなっているらしい。夏には、もうしゃべれない祖母を見舞った。祖父母の中で一番強く、逞しく、圧倒的だった祖母が、ずいぶんと小さな身体になってしまったことにショックを受けた。
祖母は口の達者な人だった。今でも忘れられないのが、私が上京するとなったときに言われたことだ。
「いくらフリーセックスの時代だって言っても、簡単にやらせたらあかんよ」
よりにもよって血の繋がった人物から言われたくないことだし、なによりも祖母の口から「セックス」などといいう言葉は聞きたくなかった。
私が生まれたころ、祖母は私に、自分の乳首を含ませた、と母から聞いた。『へレディタリー/継承』のおばあさんも、孫であるチャーリーに同じことをしようとした。祖母と、スクリーンの中のおばあさんが、かぶって見えた。
私の祖母はよく喋る人で、さきに書いたように要らないことまでしゃべるため、私はあまり好きではなかったし、今も、好きではない。彼女に死が迫っている今でも。必ず来る別れを悲しむ気持ちは、残念ながら湧いてこない。ただ、亡くなってしまったら、思うこともあるだろう。『へレディタリー/継承』の主人公(トニ・コレット)も、自分の母親が死んだにも関わらず、涙ひとつこぼさない。いつか泣けるのだろうか、と言う。
おばあさんの死をきっかけに、主人公家族はバラバラになっていく。なによりも不幸なのは父親(ガブリエル・バーン)だが、なぜ不幸なのかを書いてしまうとネタバレになるので避けておこう。孫は2人おり、兄のほうは学校でマリファナを吸ったりしている。妹は13歳で、人との関わりをうまく築けない。チック症状も見られる。おばあちゃん子だった妹は、母親に反発していた。
さて、ここから先のストーリーは、書いてはいけないことになっているため、触れられない。起承転結で言ったら「承」の部分から先を書けないというのはなかなかに難しいが、許してほしい、ご自分の目で確かめてほしい。言えるのは、中盤まではまったく怖くないということだ。私はかなりの怖がりで、帰宅して自分の部屋のドアを開けることすら怖いのだが、それでもだいぶ余裕で見ていた。ところが、とにかく、クライマックスがヤバかった。それまでも不穏な空気が漂っていたが、「結」は不穏を通り越していた。名作に例えるなら『エクソシスト』(1973年)や『ポルターガイスト』(1982年)のような空気のある映画だと思う。もっと似ている映画があるのだが、タイトルを失念したことと、書くとネタバレっぽいので書かない。これはつまり、『エクソシスト』『ポルターガイスト』を挙げたが、完全にこの2作に似ているわけではないということでもある。空気感、なんとなく察してほしい。
先のまったく読めないストーリーと、工夫された絵作り、心を深くえぐってくる恐怖は、唯一無二のものであると言っても過言ではなかろう。ホラー慣れしている人にも、そうでない人(私のような)にも、おすすめしたい。たまには怖いのもいいじゃないか。
人の死は、周りの人間を変えていく。それは恐怖だ。良い方向に変わることもあるだろうが、恐怖だ。なぜ人は、死んだ瞬間から「畏怖の対象」になってしまうのだろうか。これについては深く考えたいところだが、考えると怖くなってしまうためブレーキを掛けている。私には恐怖と向き合うだけの心の強さがない。いつかゆっくり考える日が来るのかもしれない。
そして、もうすぐ、私の祖母が、死ぬ。


