ヒットマン
Hit Man/監督:リチャード・リンクレイター/2023年/アメリカ
マスコミ試写で鑑賞。公開は2024年9月13日です。実話ベース。
リチャード・リンクレイター監督作はかなり好きです。一番好きなのは『スキャナー・ダークリー』(2006年)、その次が『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年)ですね。
あらすじ:殺し屋のふりをします。
※ネタバレはありません。
猫と暮らすゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は、大学で心理学と哲学を教えています。その一方で、地元の警察に技術スタッフとして協力していました。
ある日、ひょんなことからおとり捜査で殺し屋に偽装しなければいけなくなったゲイリーでしたが……。
ゲイリーは非常に演技と嘘がうまかったのです。殺し屋として依頼人と交渉するさい、相手に不安を与えたり安心させてみたり、自分が言葉に詰まりそうになったら話題をフッと変えてみたりするんですね。そうやって依頼人を信用させ、お金と、証拠になる言葉(「殺せ」とか)を引き出します。依頼人の種類はさまざまで、ゲイリーは相手によって自分の見た目や話し方を変えて巧妙に偽装していました。もう、ここだけ観ても相当に面白い!
ところが、マディソン(アドリア・アルホナ)がモラハラ夫の殺害を依頼して来たとき、ゲイリーは証拠となる金を受け取らず「この金で家を出ろ」と彼女を見逃してしまいます。この、たった1回の情のせいで、ゲイリーは窮地に陥ることになるのでした。
ネタバレ……にはならないと判断しますが、後半の展開がそこはかとなく『スキャナー・ダークリー』っぽいんですよね。ご覧になったことのない方に簡単に説明すると、『スキャナー・ダークリー』は、麻薬捜査官がおとり捜査で薬物中毒のふりをしていたら本当に薬物中毒になってしまったというお話です。U-NEXTとAmazonプライムビデオにあるので、興味を持たれた方はどうぞ。面白いよ。
他人と接するとき、みなさんは自分を偽りますか? 私は偽ることもあります。相手によって態度を変える人というのは往々にして嫌われがちですが、私は、それって当たり前のことだと思うんですよね。たとえば親しい友人と会っているときの自分と、会社で上司に仕事の報告をしているときの自分は違いますよね。それに、恋人に接するように同僚にも接していたら、おかしな人だと私は思います。相手や状況によって人に対する態度を変えたり偽ったりすることは自然なことなんじゃないかな。だからこそ、「ありのままの自分を愛して欲しい」「ありのままの自分が一番美しい」という、私には若干胡散臭く思える言葉が、まるで唯一の真実のように語られるのだと思っています。
ちょっと話がそれますが、「ありのまま」というのは一体どういうことなんでしょう。私は休みの日に丸一日部屋着のままで外にも出ず、化粧もせず好きなことをやったり映画を観たりしますが、私のその状態を「ありのままの自分、この自分を愛して欲しい」と主張するのは無理があると思います。さすがにちょっと見た目も行動も他人から見て不快にならないよう、気にするべきでは……。「ありのまま」のハードルってどのへんに設定されているんでしょう。きちんと梳かされた髪、美しく見せる(あるいは自分のテンションを上げる)ための化粧、こざっぱりとした服装、年相応の持ち物などで自分を飾ることはまったく悪いと思わない、というか悪いわけがない。それが社会の中で生きるということだから、と思っています。それでも、格好なんて気にしない! 心で勝負! とか言う人は、1話だけでもいいから『クィア・アイ』観たほうが良いよ……。見た目にもある程度は気を配らないと、心まで見てもらえないと思います。まずはスタートラインに立て。
と、完全に映画から離れたところで感想がまとまりそうですが、最後にもう一度この映画について書きます。
グレン・パウエルのさまざまな変装と演技がとても楽しいし、人たらしっぷりが笑顔にあらわれているようでとてもチャーミングです。ハラハラするところはとことんハラハラさせてくれるのもとても良いですね。おすすめです。


