PERFECT BLUE/パーフェクトブルー
PERFECT BLUE/監督:今敏/1997年/日本
この記事は2011年に書いたパーフェクトブルー/「ブラック・スワン」との類似と相違 | 映画感想 * FRAGILEを修正し転載したものです。
『パーフェクトブルー』が『ブラック・スワン』に似ている、むしろ『ブラック・スワン』の原作は『パーフェクトブルー』だ、と言われているようなので、見てみました。『ブラック・スワン』はすでに洋盤ブルーレイで鑑賞済みです(当記事にて『ブラック・スワン』のネタバレはありませんが、内容に触れている部分はあります)。
あらすじ:アイドルグループ、チャムに所属する霧越未麻(岩男潤子)は、アイドルから女優への転身を決意します。しかしそれは容易なものではありませんでした。マネージャーのルミ(松本梨香)は元アイドルで、未麻が女優になることには反対しています。未麻は、ファンからの手紙によって、何者かが自分を騙ってサイトを運営していることを知ります。
未麻のアイドルっぷりがリアルにしょぼくて(ヒーローショーと抱き合わせの野外コンサートとか、成功してもオリコン80位台とか、安そうなアパートとか)そこがまずすごく好きです。もうちょっとアイドルでがんばったら売れるかもしれない、でももしかしたらダメかも、ここが運命の分かれ道なのかも、と悩んだ未麻が、やっぱりこのままではダメだ、新しいことをして変わらなければいけない、と決意したんだろうというのがわかるんですよね。あんまり給料よくないパッとしない仕事してて、このまま働き続けてもいいけど転職したほうがいいのかなあ、と何度も何度も悩んだことがあるので、よけいそこがリアルに感じるのかもしれないです。映画を自分の方に引き寄せ過ぎかもしれないんですが……。
未麻が、アイドルでいたい自分、こんなはずじゃなかった自分、変わりたい自分、のあいだで揺れ動いていくさまや、不審な出来事とその真実についてなどが、少しずつ積み重なっていくようすもとても良かったです。なにがなんだかわからない、自分のことがわからない、っていうのはやっぱりほんとうに大好きです。すごくおもしろかったですね。
『パーフェクトブルー』と『ブラック・スワン』の類似と相違
『パーフェクトブルー』と『ブラック・スワン』の、似ているところと違うところを挙げていこうと思います。似ているか、違うかを書くと『ブラック・スワン』のネタバレになってしまうので、挙げるだけで似ているかどうかは書きません。
鏡の存在
鏡に写る姿は、他人の目から見た自分の姿です。アイドルである未麻にとって、他人(ファン)から見た自分の姿は大変重要なものです。また、自らを客観視する意味もあります。未麻はたびたび、鏡の中に自らの幻覚を見ます。鏡の中のミマは、鏡を見ている未麻に向かって話しかけてきます。それは、未麻の「アイドルとしての気持ち」であり、未麻はミマの言葉に翻弄されます。『ブラック・スワン』でも、ニナ(ナタリー・ポートマン)は鏡の中に幻覚を見ます。バレリーナにとって鏡は練習などで自分の姿を確認するために必要なアイテムです。
性の強要
未麻は、ドラマでレイプシーンを演じたり、ヘアヌードを撮られるなど、自分の意志にそぐわない過激な仕事が増えてしまいます。本心ではそういった仕事を嫌だと思っていますが、周囲に流され断りきれません。
成功者と嫉妬心
未麻は、自分が脱退したあと2人組になったチャムが、アイドルとして成功していくのを目の当たりにします。最初はそのようすを冷静に眺めていますが、2人のラジオ番組収録中、2人とともに談笑するミマの幻覚を見てしまい、耐え切れずその場を後にします。それは2人への嫉妬心からではなく、ミマへの恐怖心からです。未麻はミマと向きあうことができません。『ブラック・スワン』には、ニナが持たないものを持つ者が、自分の代役として現れます。その存在はニナをおびやかすものです。
精神的な、あるいは身体的な変化
未麻は、ミマの幻覚を見るだけではなく、現実と夢の区別がまったくつかなくなっていきます。ドラマの撮影をしていたと思ったら、ベッドに寝ているというのを数回繰り返します。未麻には、身体的な変化は現れません。ニナは自分の背中にひっかき傷を見つけます。身体的な変化は、バレエが身体表現を重要とする芸術であることとの関連を感じます。
殺人事件
未麻の周囲で殺人事件が起こります。被害者は、未麻と関係のある人たちです。未麻は自分の部屋で血に汚れた服を見つけ、無意識のうちに自分が殺人を犯したのかと思い、激しく動揺します。殺される者は、未麻にレイプシーンを書いたり、未麻のヘアヌードを撮ったりした、アイドルの未麻のイメージを壊すような人たちです。犯人は、未麻の「アイドルとしてのイメージ」を守ろうとしていました。「誰が犯人なのか」という謎解きの要素があります。
強く望む者の存在
ミーマニアさん。殺人事件の実行犯です。「アイドルの未麻」を愛しています。マネージャーのルミが黒幕で、「未麻は女優ではなくアイドルでなければならない」という勝手な希望をおしつけ、ミマを創り上げてしまいます。ミーマニアさんの部屋にびっしり貼られた未麻のポスターがいっせいにしゃべるシーンがあります。
入浴シーン
このシーンは『レクイエム・フォー・ドリーム』がそのまんまですね。動画貼っておきます。ダーレン・アロノフスキーは、このシーンを『レクイエム・フォー・ドリーム』で使うために、『パーフェクトブルー』のリメイク権を買いました。
結局「ブラック・スワン」は「パーフェクトブルー」をぱくってんの?
たとえば『マトリックス』と『攻殻機動隊』が、『インセプション』と『パプリカ』が比べられてきたように、『ブラック・スワン』と『パーフェクトブルー』は比べられるのだと思います。そして、『マトリックス』と『攻殻機動隊』、『パプリカ』と『インセプション』が(もちろん)「違う映画」であるように、『ブラック・スワン』と『パーフェクトブルー』も違う映画だと思います。
ただ、「これで『パーフェクトブルー』の実写化はなくなったな」とは思います。ダーレン・アロノフスキーは『パーフェクトブルー』の実写化権を持っていますが、『ブラック・スワン』を撮った今、『パーフェクトブルー』を実写化する必要はないですから……。 また、比べられやすいからといってどちらのほうが作品として優れているかというような上下はありません。両方とも素晴らしい映画です。どちらのほうが好きかという好みの問題はあるとは思います。わたしは、『パーフェクトブルー』を観客の視線で見ていましたが、『ブラック・スワン』はニナの恐怖を追体験するような気持ちになりました。その目線の違いは、単に違いであって差ではないのです。


