関心領域/向こう側の「人」と、ありふれた日常

人間ドラマ
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関心領域

The Zone of Interest/監督:ジョナサン・グレイザー/2023年/アメリカ・イギリス・ポーランド合作

新宿ピカデリー シアター3 L-19で鑑賞。映画館久しぶりすぎました。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞。

あらすじ:隣が強制収容所です。

ネタバレはありません。

壁に囲まれた家に、家族が住んでいました。あらすじとしては以上です。


音楽が『MONOS 猿と呼ばれし者たち』のミカ・レヴィだと聞いていたのですごく楽しみにしていました。『MONOS 猿と呼ばれし者たち』は、今ちょろっと調べたらHuluでの配信で、なかなか観る機会がなさそうですがとても良いのでぜひ。

とにかく音楽が良かったです。すごくうるさいんですよね。雑音のような音楽に紛れて銃声とかが聞こえる。カクテルパーティー効果を強く感じました。それは私が、この映画が何を描いているのか事前に知っていたからだとも思います。カクテルパーティー効果について念のため引用します。

カクテルパーティー効果とは、カクテルパーティーのような騒がしい場所であっても自分の名前や興味関心がある話題は自然と耳に入ってくるという心理効果です。

引用元:カクテルパーティー効果 – 一般社団法人日本経営心理士協会

それで強く感じたのが、「私は果たしてこの映画に関する事前知識を何ももたずに観て、内容を理解できただろうか」ということです。もちろん、わかるように描いているので途中で気づくとは思うんですが、バイアスがかかっているのは確かなんですよね。映画の宣伝は難しいなと思います。それは『ニトラム/NITRAM』を観たときも感じました。友人が、『ニトラム/NITRAM』を何にも内容を知らずに観てすごく良かったと言っていたことが、とてもうらやましかったです。アマプラU-NEXTにあるので、何も知らないままで観てほしいです……。

映像もすごく良くて、きれいなんですよね、色味がきれい、どこを切り抜いても絵になりそうなかんじ。旅先から親しい人に愛を込めて送るポストカードのようだなあと思いましたね。色が変わるところとかもショッキングで良かったです。怖いわけではないです。

内容について、強烈に思い出したことがあります。アンティークフェアin新宿という蚤の市が定期的に開催されていたころ、いつも同じ場所で同じものを売っているお店がありました。ウランガラスや動物の剥製などを売っているお店なのですが、奥の方にひっそりとガラスケースが置いてあって、ナチス関連のものが収められていたんです。「政治的な議論はしません」という内容の貼り紙がしてありました。

そこでは、主にベルトのバックルやピンバッジ、新聞の切り抜きなどが売られていました。そこにあるとき、布張りの本が置いてあったんです。モスグリーンの表紙で金の箔押しがしてあって。手にとって中を見たら、空軍の教科書だったんですね。なぜ教科書だとわかったか、と言うと簡単な話で、戦闘機の絵が描かれていたからです。小さな字で書き込みがしてあって、落書きもあって、名前らしきものも書いてありました。一通り中を見てから改めて表紙を見たら、小さなハーケンクロイツが描かれていたんです。おそらく何度も読み返したのでしょう、手でこすれて金の箔押しが消えているところに、鉛筆で描かれた小さなハーケンクロイツ。それを目にしたときに、「ここに人がいるんだ」と思いました。

どのような気持ちでハーケンクロイツを描いたのかなんて想像もできませんが、確かに人がいるんだ、と。意思をもち感情のある人がいる。これはとても恐ろしいことで、教科書に落書きをするような人、若いであろう人、もしかしたら10代かもしれない、そんな「人」が、彼と同じように感情をもち日々を生きている多くの「人」たちを殺すんです。人を愛し、愛され、ありふれた日常を過ごす人たちを、人を愛し、愛され、ありふれた日常を過ごす人たちが殺す。彼らは、本質的には何にも変わらないはずなのに。

結局、その教科書は3万円以上したため、値段にひるんで元の場所に戻し、今も忘れられないでいます。もしかしたら買っておいた方が良かったかもしれません。蚤の市には戦争(ホロコーストは戦争ではなく虐殺ですが)についての物がたくさん売っています。オキュパイド・ジャパン(OCCUPIED JAPAN)の刻印がある水筒や軍事郵便はがき、年代的に戦時下だったと思われる医療器具など。それらを私は、救い出すような気持ちで買います。人の営みの中で最も愚かな行為である戦争や虐殺について、ほんの少しでも理解したいという気持ちが強いです。「歴史を所有したい」という欲望もありますが……。

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