アイム・スティル・ヒア/失われた日々と歴史の闇

人間ドラマ
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アイム・スティル・ヒア

AINDA ESTOU AQUI/I’M STILL HERE/監督:ウォルター・サレス/2024年/ブラジル・フランス合作

マスコミ試写で鑑賞。公開は2025年8月8日です。第97回アカデミー賞®国際長編映画賞 受賞、3部門(作品賞・主演女優賞・国際長編映画賞)ノミネート。第81回ヴェネツィア国際映画祭最優秀脚本賞受賞、第82回ゴールデングローブ賞主演女優賞受賞。

あらすじ:夫が逮捕されました。

ネタバレはありません。

1970年代、軍事政権時代のブラジル、リオデジャネイロ。元下院議員のルーベンス・パイヴァ(セルトン・メロ)はある日、政府に連行され、妻と5人の子どもたちを残して行方不明になってしまいます。

妻のエウニセ(フェルナンダ・トーレス)も拘束され、夫が共産主義者なのではないか、テロリストを家に入れているだろう、などと尋問されます。やがて釈放されたエウニセは、依然として行方不明のままの夫を探し始めるのでした。

この物語は、愛する人を突然奪われた女性が、少ない手がかりと交友関係を駆使してしぶとく真実を追うようすを、手堅く誠実な筆致で描いていると思います。ブラジルの歴史のことは何も知らなかったので調べてみました。

ブラジルでは、1964年から1985年までの21年間にわたり、軍事政権が支配した。この政権は、米ソ冷戦が生み出した産物といわれる。第2次大戦後、南米諸国は曲がりなりにも、民主主義が機能していた国が多かったが、突如として、1960年代から、次々と権威主義的軍事独裁政権が誕生し始めた。ブラジルでは、1964年に無血クーデタによって、ブランコ政権ができたが、それまでの憲法を骨抜きにする法律を作って、反対派を弾圧した。逮捕された人は、拷問され、中には強制失踪して行方が分からなくなった者もいた。

1980年代になって、これも突然のように、南米の諸国は民主主義の政権に戻っていった。この軍事政権から民主政権への移行期に、軍事政権下で行われた人権侵害に対する清算を平和裏にどのように行うか、各国家によってその行程に違いがみられる。

ブラジルでは、軍事体制から民主主義体制にスムースな移行を行うため、1979年に、いわゆる「アムネスティ法」が制定された。この法律によって、軍事政権下で行われた人権侵害の加害者が罪を問われないという状況が現出した。今日ではブラジルが軍事政権から民主主義政権へ移行して30年が経つ。しかし、「アムネスティ法」は、今でも厳然として存在し、軍事政権下で行われた人権侵害の実態解明が進んでいない。

ブラジルの移行期における軍事政権下の人権侵害の清算 – 文教大学学術機関リポジトリ(PDF)

このへんのことは映画を観る前に調べておけば良かったかなあとは思います。普段は事前に調査などをしていないので、今作に限ってそれをするかと言えばしないわけですが……。でも、前情報がどうしても必要な映画(予習しておかないと内容が理解できない映画)というわけではありませんでした。歴史もので政治の話なので、とっつきにくさは感じますが、観ていればわかる映画なので安心してください。

本国ブラジルでは、軍事政権時代を賛美する極右勢力からの上映ボイコット運動も呼びかけられたが、彼らの目論見は外れる。結果、映画はSNSなどでも話題を集め、若者層をはじめとした幅広い層に広く訴求。歴史修正主義への強烈なカウンターとなった。

サレス監督が本作の映画化企画を進める中、ブラジルでは2019年に「ブラジルのトランプ」と呼ばれる元軍人のジャイール・ボルソナーロが大統領に就任。極右勢力のボルソナーロは、銃規制を緩和し、差別的発言を繰り返し、ブラジルではタブーとされてきた軍事独裁政権を賛美するなど、極右思想が拡大していった。

拷問や強制失踪が横行・・・ 「軍事政権に壊された家族」描くブラジル映画『アイム・スティル・ヒア』 “賞レースの顔”となった本作の凄さとは | 映画・音楽 | 東洋経済オンライン

極右勢力からの上映ボイコットというあたりが、どこの国でも起きそうだなと思えてならないです。

映画を観終わってからあらためてポスターを見ると、家族のなかでエウニセだけが笑っておらず、違う方向を見ているんですよね。映画の後半で同じ写真が少し出てきますが、そちらではエウニセも笑っていてカメラ目線でした。この映画を象徴するような1枚だなと思います。

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