劇団四季ミュージカル『ウィキッド』/あなたは光の中で生き、わたしは闇の中へ逝く

ミュージカル
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劇団四季ミュージカル『ウィキッド』

Wicked

こちらの記事は、2013年に書いた劇団四季ミュージカル「ウィキッド」/あなたは光の中で生き、わたしは闇の中へ逝く | 映画感想 * FRAGILE を転載したものです。

この世に悪が必要ならば、わたしがそれを背負いましょう。

あらすじ:ふたりの魔女の物語です。

ネタバレしています。注意書きはありません。ラストについてのネタバレはありません。

再三申し上げております通り、わたしは1939年の『オズの魔法使』が大好きでですね、『Return to OZ』『WIZ』『オズ はじまりの戦い』と、ついでに『Under the Rainbow』を見てきました。しかし原作は未読です。『ウィキッド』はスティーブン・ダルドリー監督で映画化予定※ということもあり、ちょうどいいタイミング(わたしのスケジュール的に)で公演がありましたので、見てきました。

※2013年の時点ではスティーブン・ダルドリー監督で映画化と発表されていましたが、のちにジョン・M・チュウ監督へ変更となりました。映画完成まで10年以上待ったことになります。ついでに、この頃は一人称が「わたし」でしたね。気持ち悪いと言われたので漢字に変えたという経緯があります。

生まれつき肌が緑色で嫌われ者のエルファバと、美貌と財力で人気者のグリンダ。ふたりはお互いを嫌い合っていたが、あることがきっかけで接近し…。

前述のとおり原作未読ですので、どういう物語なのか知らずに見に行ったんですね。わたしは劇団四季は初めてだし、全体的にどんなかんじなのかなあとすごくドキドキしていました。期待値かなり高かったです。しかしそれを上回る素晴らしさで、第一部は9割くらい泣きっぱなしで酸欠になりかけましたね。

2階席の真ん中あたりで観ることができました。ステージを見下ろす状態で、遠くはありましたが、わたしは視力が良いのでオペラグラスなしでも演者の表情などがはっきり見られて良かったです。舞台装置や演出も素晴らしかったですね~。お歌は、わたし日本語ミュージカルに慣れていなくて違和感をかんじてしまい、聞き取れないときもあったのですが、音楽はとても良かったです。しかし泣きすぎて話が頭から飛んじゃっている部分があるので、もう一度見たいですよね……。映画化早くしてくれないかな……。

まずエルファバの生い立ちが語られるわけですが、もう、エルファバが産まれた瞬間から大泣きしてしまいまして……。彼女はある理由で生まれつき肌が緑色なんですね。エルファバの妹ネッサローズも生まれつき脚が悪くて歩けない。わたし、「生まれつき周囲の人間と外見が明らかに違うひと」というのにものすごく弱いみたいです。結合双生児が好きなのもそうだし、『エレファントマン』『フリークス』『ウィロー』とかね。好きですね。過剰なほど感情移入してしまうようです。

エルファバはその外見のため周囲から敬遠される。性格がはっきりしすぎていてまわりに合わせることもしないので余計ハブられるわけです。いっぽうグリンダは、「周囲に愛されること」を第一に考えて行動している。

エルファバは他の人にない魔力を持っており、優等生なのです。グリンダはそこんとこダメ、ぜんぜん。なんにもできない。それでお互いがお互いを「こいつとは合わん! 嫌い!」ってなるんですね。

最初のうちグリンダは本当に嫌な感じですが(1939年の『オズの魔法使』でも嫌な感じがちょいちょい出てた)ダンスホールの、微妙~な空気からだんだんエルファバと親しくなっていく様子がとても良かったです。秘密の打ち明けっこのシーンで、「ネッサローズの脚が悪いのは自分のせいだ」と言うエルファバに対し、グリンダが「それはあなたの責任ではない。そしてあなたにとって秘密かもしれないが事実ではない」と言うところとかすごくグッと来ました。この物語のうえで重要なセリフであると思います。

誰にでも、心に秘めておきたいことはあります。とくにそれが「自分に非があり残念な結果を招いた」ことである場合、自分の中で罪悪感がどんどん育っていってしまう。でも、もし誰かに秘密を打ち明けたならば、グリンダが言うとおり、「いや、それはあなたのせいではないよ」とさらっと返されて気持ちが楽になるかもしれない。もちろん、「あぁ、たしかにあなたが悪いね、むしろ反省が足らないんじゃないの」って返されてよけい罪悪感が大きくなる可能性も高いので、なんでもかんでも打ち明ければいいと言いたいわけではありません。

エルファバはオズにはめられた形で「この世の平和を保つために必要な、みなの共通の敵」にされてしまいます。わたし、ここのシーンで頭がくらくらするくらいショックを受けて、エルファバが宙に浮かんでいくところで何を歌っていたのか覚えていないんですよ(笑)。

彼女は世間から敵扱いされることを受け入れたということでよろしいのでしょうか。そういう前提で進めます……すみません……。

エルファバは自分の役割をわかってしまった、そしてグリンダの役割もわかった。自分は悪でかまわない、グリンダには良い魔女として周りを癒してほしい。ちょっとこの際、王子様フィエロとの三角関係については置いといてですね。グリンダがエルファバに「あなた、おかしいわよ」などと言うシーンがあります。これは彼女らが(お互いが違うということを認識した上で)理解しあっているから言えることだなと。ダメなときに叱ってくれる友達が本当の友達だ、みたいなこと言うじゃないですか、よく。あれはほんとだなって思いますね。

印象的なセリフがもういっこあって、スケアクロウになってしまった王子様フィエロをエルファバが褒める、「そんな馬鹿な」と言う王子様に対しエルファバは「物事を違う角度から見ているだけよ」と答える。これも重要なセリフだなって思いますね。物語全体を象徴しているかんじ。

ところで、1939年の『オズの魔法使』ではあんなに良い人だったオズが、『オズ はじまりの戦い』ではチャラくてどうなの…って思ってたんですけれども、『ウィキッド』ではそれに輪をかけてマジどうなの……ひどい……っていう人で、面白かったですね。善悪(と、差別、そして真実)についての物語だと思いますので、オズが酷い人っていうのはすごく納得いきます。

他人からどう思われているのかと、自分が実際にどうあるのかは違います。社会において自分をどのような立場に置くのかは、自分で決められるときもあるし、周囲が決めたほうがよいときもある、そもそも「決める」ものではないかもしれません。

生まれ持ってしまったものはなかなか変えられないです。しかしそれを受け入れるかどうかで人生を変えていくことはできると思っています。自分の性格は、無理をして変えなくてもいいし、たまには周囲に合わせた方がいいときもありますよね。

そして、「一般的な人」と違うからといって他人を排除しようとするのは、あってはならないのです、本来は。しかしわたしたちは、そのことを忘れて生きています。誰もみな自分のことで精一杯だからね。実際に起きた出来事と、本当のことは違うかもしれない、なにが正しくてなにが間違っているのか、善の光が眩しすぎて、影に隠れた悪に気付けないことは多いでしょう。もちろんその逆もしかりですし、善悪だけで判断してはならないと思います。ものの見方をちょっと変えれば、隠されている(ように思える)事実が浮かび上がってくる、わたしはそう思いたいし、さまざまな物事をどう受け止めてゆくかが大切なのではないでしょうか。

ただ、ものの見方を変えるのは、なかなかに難しいことでもあるのです。だからわたしたちは、他者と積極的に関わりを持ち、多様な価値観に触れるべきなのではないかと、思うんです。でもやっぱり、これも難しいことでね、つねに意識していないと、できないことですよね。ひとの生き方や社会についての、根深い問題を描いている作品だなあと思いました。

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