あんのこと/事実は小説より

人間ドラマ
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あんのこと

監督:入江悠/2024年/日本/© 2023『あんのこと』製作委員会

マスコミ試写で鑑賞。6月7日(金)新宿武蔵野館、丸の内TOEI、池袋シネマ・ロサほか全国公開。2020年6月に新聞に掲載された「ある1人の少女の壮絶な人生を綴った記事」に着想を得て描かれた、実話をもとにした人間ドラマです。私は入江悠監督作品を観るの初めてです。そして、こちらの感想も併せてどうぞ→『恋空

あらすじ:悲惨な人生を歩む(実話)。

ネタバレはありません。

自傷癖があり麻薬中毒で、売春もしている20歳の杏(河合優実)は、警察の取調室にいました。刑事の多々羅(佐藤二朗)はぶっきらぼうですが人情味のある男で、小学校すら出ていない杏を支えようとします。また、多々羅を取材している雑誌記者の桐野(稲垣吾郎)も、杏のことを気にかけています。


杏の母(河井青葉)は自宅で売春を行っているようです。杏は、脚が悪い祖母(広岡由里子)と母の3人で、足の踏み場もないほど散らかった団地に住んでいます。そして母は日常的に杏に対して暴力をふるっていました。

母は、杏のことを時折「ママ」と呼びます。杏をモノとして扱う一方で、彼女に依存していることがわかります。気まぐれに甘えられても、杏にとっては母の姿は恐怖でしかありません。

恋空』の感想に書いた通り、設定がケータイ小説っぽかったので観たところ、最初のワンカットで「あっ、ケータイ小説とか言ってすいません」となりました。そりゃそうですよね……。画作りからなにからまるっきり違う。そりゃそうですよね……。

周囲の支えによって杏の人生が前向きに進み始めた矢先、ある出来事によって彼女をとりまく環境はがらりと変わってしまいます。そこには、それまでとはまったく違った地獄がありました。差し込まれる不穏なカット、最低限の説明と音楽で進んでいく物語。後半は本当に、なぜ杏に平穏が訪れないのか、なぜ彼女ばかりが酷い目に遭わなければならないのか、そして、杏のような人のことを「下に見る」社会に対する憎しみで、胸が張り裂けるようでした。あとあの女な……よくもまあぬけぬけと……。

この物語に出てくる登場人物たちの中で、誰かを明確に「悪人」としてしまえば、まだ気持ちが楽だったかもしれません。まあ、一番問題があるのは杏の母で、彼女を「悪人」と捉えることは容易です。というか、そうであって欲しいと思いますね。私の憎悪を一手に引き受けて欲しいと。でも、立ち直ろうとしていた杏の環境がふたたび悪くなった直接の原因は、母ではないんですよ。これを書くともちろんネタバレになってしまうので書きませんが……。

また、特筆すべきは河合優実の演技と、撮影および照明だと思いました。何気ない平和な日常について表すとき、薄暗い部屋にふと射し込んだ光のバランスがとても印象的でしたね。それから、佐藤二朗の、タバコやツバの扱いも良かったです。佐藤二朗を良いと思ったのは初めてかもしれません(『さがす』は私には合いませんでした)。

全体的には、めちゃくちゃにどんよりする、つらい映画です。おすすめです。映画を観てどんより出来るのは、平穏な日常を過ごしている健康な精神状態の人だと思うので。これを機会に入江悠監督作品を観ていこうかなと思いましたね。おすすめ教えて下さい。

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