ニトラム NITRAM/差し伸べられた手が、彼に届くのなら

サスペンス
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ニトラム NITRAM

NITRAM/監督:ジャスティン・カーゼル/2021年/オーストラリア

こちらの記事は、2022年に書いた ニトラム NITRAM/「普通」とは、何か。 | 映画感想 * FRAGILE を転載したものです。第74回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞しているだけあり、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技は本当に素晴らしい。

新宿シネマカリテ スクリーン1 D-8で鑑賞。8だと左すぎるので、2席くらい右に座るとちょうど良さそう。

あらすじ:オーストラリア最悪の銃乱射事件。

ネタバレしています。本文中、ネタバレの前には注意書きをしています。


「ニトラム 批判」でちょっと検索して出てこなかったが、批判があったのは確か。


病院に行く描写があるし、薬を飲んでいるので治療はしているのだが、果たしてそれが本当に彼にとって必要な治療だったのかがわからない。1996年のオーストラリアで、精神疾患がどれほど理解されていたのかもわからない。

※以下ネタバレを含みます。

ニトラムには、突発的に暴力を振るうような不安定さがある。弱った父親(アンソニー・ラパリア)を殴るシーンがきつい。親子ほどに年の離れたヘレン(エシー・デイビス)に心を許し、依存しているようにも見える。映画コムのあらすじには、ヘレンと恋に落ちると書かれているが、映画を観た限り、それが恋であったのかどうかは判然としない。父親は自殺、ヘレンはニトラムのせいで事故死してしまう。母親(ジュディ・デイビス)はニトラムを守ろうとしているが、どうしたら良いのかわからないように見えた。父親とヘレンの死は、ニトラムにとって大きな精神的負担がかかったのだろうと容易に想像できる。が、父親の葬儀に変な服装で行ってしまうところは、彼がどこかズレていることを明確に表している。彼はずっとどこかズレている、手に負えない息子を持った両親の苦悩ぶりがまたしんどい。

「普通」とは何か。「普通の人」なんて、本当に存在するのか。ニトラムは明らかに「普通」ではないのだが、じゃあなんなんだと言われると、なんだかわからない。この、掴みどころのない役を見事に演じきったケイレブ・ランドリー・ジョーンズに拍手したい。推しの演技がうまくて嬉しい。嬉しいが、感情移入してはならない。なにせ35人も殺したのだ。いくらニトラムが精神的に追い詰められていたとはいえ、殺人を擁護することはできない。

映画の終わり、この事件をきっかけに銃が規制されたと出る。私は、この事件においては、原因が銃にあるとは思えない。もし銃がなかったとしても、ニトラムは人を殺していただろう、なんらかの形で。一体何が悪かったのか。どうすればニトラムを救えたのか。ヘレンが生きていたら? 両親がニトラムに適切な治療を受けさせていたら? ifはいくらでもあるが、しかし、現実は残酷だった。

加害者側の事情を映画化することは、被害者と遺族に更にダメージを与える行為だと思う。が、存在すべきでない映画だとは言えない。銃乱射事件の映画化というとまっさきに思い浮かぶのが『エレファント』(2003年)だが、手触りはまったく異なる。『ニトラム』は、加害者に寄り添ってしまう形の映画だった。メンタルの調子が良いときに観たほうがよい。そうでないと、こちらの情緒が不安定になってしまう。それくらい、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの演技と、演出がうまい。劇薬だが、観て良かった。

ニトラム』の感想に、↓のリプがついた。この人は色んな人に同じ文面でリプを送っているので私は返事をしませんが(まあ英語できないのもあるし)、問題作扱いをされていることがわかってよかった。

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