ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌/僕は恋愛が下手だ

ミュージカル
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ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌

La boheme: A New York Love Song/監督:レイン・レトマー/2022年/香港・アメリカ合作

マスコミ試写で鑑賞。公開は2023年10月6日。プッチーニ作曲のオペラ『ラ・ボエーム』のミュージカル化。私はオペラとミュージカルの区別がいまいちついていない。地のセリフがなくずっと歌っているのがオペラだと思っていたけど違うみたい。今作は、1930年代のパリが舞台だったものを、現代のニューヨークに変えている。監督のレイン・レトマーはオペラの演出家で、登場人物には現役のアジア系オペラ歌手を起用している。主要人物のひとりに日本人がいる(コッリーネ役、井上秀則)。地のセリフはほんのわずかしかなく、歌ですべてが進んでいく。

あらすじ:真冬のニューヨーク。

ネタバレはありません。

屋根裏に住む、けして裕福とは言えない若者4人は、パンデミックで閑散とした街に繰り出そうとする。詩人のロドルフォ(シャン・ズウェン)は、脚本を書くために屋根裏に残った。そこへ、火を借りにミミ(ビジョー・チャン)がやってくる。ロドルフォとミミは恋に落ちる。映画だし、話の運びが早いのはそういうものと思って普段観ているが、ミミに対してロドルフォが若干偉そうというか束縛がきつそうには見えてしまった。出会ったばかりなのにね。と思っていたら、のちの展開で「あーーーーねーーーー」ってなった。ロドルフォ、お前いいかげんにしろよ。愛もほどほどが良いのかもしれないよ。いっちばん付き合いたくないタイプだよロドルフォ。はっきり言ってモラハラですからね!

画家のマルチェッロ(ルイス・アレハンドロ・オロスコ)は、チャイナタウンで元恋人ムゼッタ(ラリサ・マルティネス)と再会する。ムゼッタはマルチェッロを再び振り返らせようと挑発的な態度をとる。ムゼッタはかなり自己中心的な人物のようで、恋の駆け引きというよりはマルチェッロを服従させようとしているように見える。でもそんなところが良いのか、マルチェッロはムゼッタとよりを戻すのだった。しかし……。
ムゼッタのセリフでちょっとイラッとしたのが「自由が欲しい」というところ。おまえは! 十分! 自由に! やってきただろうが!

私は、地のセリフがなく歌で進んでいく映画をほとんど観たことがない。思い当たるのはケン・ラッセル監督の『Tommy』(1975年)くらい。ちなみに『Tommy』は、初見のときあまりにもテンションが高すぎてついていけなかったが、何度か観るうちにお気に入りの1本になった。

夜が続くから一晩の話かと思ったら1ヶ月時間が進んでいたりして戸惑うところもある。章仕立てになっているので、章ごとで時間が違うと理解すればついていけると思う。ただ、私はムッとしながらも楽しんで観られたけれど、登場人物の性格に問題があるので、ムッとするだけでは済まない人もいるかもしれないなって思った。

恋愛はエゴとエゴのぶつかりあいになるときもあると思っていて(ずっと穏やかに過ごせればそれに越したことはないが、人生そう上手くはいかない)、この映画で描かれる恋愛はまさにそういった感じ。私は登場人物の誰にも共感できなかったし、「いいかげんにしてくれ」と思ったことも確かだが、だからといって映画の出来が悪いかというと、それとこれとは別物だ。登場人物に共感できず我慢もできない映画で、好きな作品もいろいろある。『ラリー・フリント』(1996年)とか『CLIMAX クライマックス』(2018年)とか『万引き家族』(2018年)とかね。感情移入できることがすべてではないし、理解に苦しむような行動を取る登場人物を安全なところから観られるというのは悪いことではない。映画ってそういうものだ、とも思っている。

ポスターに「格差、貧困、マイノリティ――苦境を前に声の限り命を燃やす、若者たちの青春賛歌」とあるが、ちょっと違うかな? と思った。確かに、格差についても貧困についても描かれはするけれど(そして「マイノリティ」は、さきに書いたとおり、アジア系の役者を使っているからだ。この映画に「白人」は出てこない)、メインはクズの恋愛模様だからね。クズって言っちゃった。どうしようもない人たちが朗々と愛を歌い上げる映画でした。けっこうけなしてるっぽく読めちゃうけど、それくらい人の心を動かすというわけで。なにかしらの感情を揺り動かすことができるだけのパワーがある、っていうことだと理解した。

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