X-MEN:ファースト・ジェネレーション/ゲイの生きづらさについての物語

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X-MEN:ファースト・ジェネレーション

X-Men: First Class/監督:マシュー・ヴォーン/2011年/アメリカ

こちらの記事は、2011年に書いた X-MEN:ファースト・ジェネレーション/ゲイの生きづらさについての物語 | 映画感想 * FRAGILE を一部加筆修正し転載したものです。「腐女子の妄想」とか「同性愛者はミュータントだと言いたいのか」といった、ネガティブな反応を多くいただいた感想です。一方で、私のこの感想が好きでいてくださる方もいらっしゃいます。こういう見方もあるよ程度に読んでもらえたらと思います。なお、この時期にライムスター宇多丸さんのラジオで、私が書いたこととそっくりな内容の投稿が読まれたらしいですが、投稿したのは私ではありません。

あらすじ:キューバ危機を回避したい。

ネタバレしています。注意書きはありません。

「お前にゲイのなにがわかる」と言われれば、返す言葉もありません。オープンリーゲイの監督として有名なブライアン・シンガーが製作で関わっていますので、ゲイ要素はあると思います。

テレパスのチャールズ・エグゼビア(プロフェッサーX)(ジェームズ・マカヴォイ)は裕福な家庭に育ちましたが、両親は一切出てきません。彼がミュータント仲間を集めるのは、擬似家族を作りたいというのがあったと思います。チャールズさんはチャラいです。人の心が読める能力を使ってナンパします。幼い頃、家に侵入してきたレイブン・ダークホルム(ミスティーク)(ジェニファー・ローレンス)をあっさり手なづけ、一緒に暮らしています。でも恋愛感情はないんですね。

ミスティークは、ナンパしまくるチャールズにイラッとして嫌がらせしたりします。チャールズはレイブンに「変身するな、本当の自分を見せるな」と言います。チャールズだけが私のこと解ってくれる人なのに、本当の私は認めてくれないなんて。と、ミスティークはモヤモヤしています。

のちに、ある人に向かって「チャールズは見た目が普通だから、私たちのことはわからないのよ」と言います。その人とは解り合えていたはずなんですが、「君は変身できるから僕の気持ちはわからないよ」って言われちゃうんですね。本当の自分ってなんだろう、というのがミスティークのテーマだと思います。ミュータントは全員「本当の自分」がテーマかもしれないですが、ミスティークは物語上わかりやすいため、一番、テーマ性を強く感じますね。外見が普通の人と違う、それを気にして周りに合わせ続けるのは「本当の自分」なのかしら? でも、この青い肌は誰も受け入れてくれない、と悩み続けます。

ハンク・マッコイ(ビースト)(ニコラス・ホルト)は、ずっとミュータントであることを隠して生きてきたため、プロフェッサーXたちと出会ったことで、承認欲求が満たされてしまいます。出会った時が最高潮なんですよ。そして自分と同じ「見た目が変わっている」ミスティークを一瞬で好きになってしまうんですね。この人は解ってくれる! でもどうしていいかわからない!

アレックス・サマーズ(ハボック)(ルーカス・ティル)は身体からレーザーみたいなものをびょんびょん出します。原作ではサイクロップスの弟なんですけど、年齢が合わないのでサイクロップスのお父さんってことになっているっぽい?

アルマンド・ムニョス(ダーウィン)(エディ・ガテギ)は生存適応能力に優れており、水に入ればエラが生えるし殴られれば肌が硬質化します。長期の戦いには向いていますよね。この人はある人といい関係ですよ、きっと。一緒にゲームやったりしちゃって。その相手が身体から出したものを飲み込んだりするんだよ。相手を受け入れる描写だと思いますね。

他にスカウトされてきた若者は、トンボみたいな羽根が生えてて口から弾を吐くエンジェル・サルバドール(エンジェル)(ゾーイ・クラヴィッツ)と、超音波を吐いて空を飛べるショーン・キャシディ(バンシー)(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)がいます。

ミュータント仲間をスカウトしにいくシーンと、修行シーンは映像的に盛り上がりますね。戦闘シーンより盛り上がるかもしれないです。

セバスチャン・ショウ(ケヴィン・ベーコン)は敵です。かつて子供だったマグニートーをひどい目にあわせました。今はイケメンを侍らせています。セバスチャン・ショウは、エネルギーを吸収して若さを保っています。セバスチャンの仲間、アザゼル(ジェイソン・フレミング)とエマ・フロスト(ジャニュアリー・ジョーンズ)。アザゼルは赤い人ね、瞬間移動するよ。最強なんじゃない? エマは身体がダイヤモンドになったりテレパスを使ったりします。

アザゼルがイケメンなのは見ての通りなんですが、エマがね、なんかね、この人ドラァグクイーンみたいなんですよね、キラキラしてるし。セクシーなのに作戦のとき以外でそのセクシーさを出してこないんです。セバスチャンの愛人でもおかしくないのに。セバスチャンの仲間はもう一人、クエステッド(リップタイド)(アレックス・ゴンサレス)がいます。竜巻を起こします。この人はセリフがありません。かっこいいよ。かっこいんだけどちょっとどんくさいとこがあって、びっくりするくらいダッサいシーンがありますよ。

この映画、敵のほうが明らかにかっこいいんですよね。生きづらさもあんまりないし。敵のみなさんは、他人と違う自分を完全に受け入れているんです。そしてそれが武器になることも知っている。普通の人とうまくやっていこうなんていう気はいっさいなくて、殺したっていいと思っている。元ナチスであるセバスチャンが、人間を支配下に置こうと企むわけです。あのときはトップが俺じゃなかったからうまくいかなかったけど、俺ならもっと規模が大きくてもうまくやれるぜ、って思っているのかもしれません。

金属を操れるエリック・レーンシャー(マグニートー)(マイケル・ファスベンダー)は、かつてナチスに迫害されていました。プロフェッサーXとマグニートーは出会いのシーンからすごくて、暴走するマグニートーをプロフェッサーXが背後から抱きしめるんですよ。そしてプロフェッサーXが「君のことは全部わかるよ。いろいろつらかったのも知ってる。君はひとりじゃないんだよ」とか言うんです。

マグニートーは理解者であるプロフェッサーXの期待に応えようとするんですよね。無茶もするわけです、プロフェッサーXに銃を持たせて「俺を撃て」とか言うんです。銃を。持たせて。撃てと。受け止められるから銃を撃てと。銃を。あと、ミサイルでの感情表現があるんですよ。あっちいったりこっちいったりすんの、マグニートーの心の揺れ動きに合わせて。ミサイルが。いっぱい飛んで。ミサイルが。

プロフェッサーXが「話せば解る」派なのに対し、マグニートーは「話し合いなんかで解り合えるはずはない」派です。これはマグニートーが正しいんじゃないかと思います。それでもプロフェッサーXは世間を変えられると思っている。マグニートーみたいに迫害されてきた人とは違う。話してもわからない人がいるのを、本当の意味で解ってはいないから、世間に希望を持っている。ここから先は、この映画では描かれないことですが……。

プロフェッサーXは最終的にアカデミーを作ってミュータントどうしでひっこむわけです、それってマグニートーが言っていたとおりのことなんです。世の中は解ってくれないから、仲間同士でひっそり生きるしかない。仲間=マイノリティ=ゲイというわけです。人間の女の人がひとりだけずっと関わっていたんですけど、その人のことは排除してしまうんですよね。ヘテロとは暮らせないんです。解り合えないから。ゲイのコミュニティの中にひとりだけヘテロがいれば、その人がマイノリティになってしまう。なお、その女の人は最初に「使える武器は使わなきゃ」と言って女を武器にする、性を武器にするんです。

なんでマイノリティ=ゲイと言うのか、マイノリティって他のもあるんじゃないのか、っていうのはですね、ミュータントが、それまでの人生の中では正体を隠して生きてきた、というのがあると思うんです。アザゼルは見た目が真っ赤なのと普段の様子がわからないのでともかくとして、それ以外の人たちは、周囲に合わせることがいちおう出来たんですよね。でも、「本当の自分」と「周囲から見た自分」との間の葛藤を抱えて生きてきたんです。

そこについては若者たちが特にわかりやすくて、ビーストは「聞かれなかったから、言わなかった」と、自分の正体を隠していました。エンジェルは性産業に従事し「男はバカだから」と距離を置いています。ハボックは「なぜか周りとトラブルになる」、能力(ゲイであること)とは別のところに生きづらさの原因があると思っています。ゲイである事実からは目を逸らしているのでしょうか。バンシーは女の子にふられてヤケクソで能力を使う、ヘテロに相手にされなかったからゲイであることをチラ見せして相手を引かせてしまう、とは言いすぎでしょうか。

そんなふうに生きてきたから、仲間が集められたときに、わあわあはしゃいで能力を解放する、本当の自分をさらけだすんですよね。今までの生活がそれなりに満たされていて彼らほどの生きづらさがなかったプロフェッサーXは彼らの奔放っぷりに怒っちゃうし、そもそも他者との深い関わりをもってこなかったマグニートーは共感能力が低いため、なにやってるのかよくわからなくて唖然としているんです。

結局のところ、プロフェッサーXがマグニートーをえんえん口説いて口説き倒し、マグニートーがとうとう落ちたとたんに手のひらを返して「あ、なんかちょっと違うみたいだわ、付き合えない」とつっぱねるという、プロフェッサーXはすごい酷い人なんじゃないかと思いました。だからねーマグニートーは、好きだっていう気持ちがばれないようにヘルメットかぶるんだよ! 本当は好きなくせに! 一緒にいたいって思ってるくせに! うまくいくふたりのはずだったのに、解り合えないんだね……。

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