イーオン・フラックス/こんな話でしたっけ……?

ディストピア
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イーオン・フラックス

Aeon Flux/監督:カリン・クサマ/2005年/アメリカ

U-NEXTで鑑賞。元は90年代にMTVで放送されていた同名のアニメですね。私は、すべてのアニメーション作品の中で『イーオン・フラックス』が一番好きです。だから実写を観るのをためらっていたけれど、まあまあ、観ずにもやもやするよりは観たほうが良いなと思いまして。

あらすじ:独裁者と反政府組織の女。

ネタバレしています。注意書きはありません。アニメ版の紹介もしていますので、できれば最後までお付き合いください。

西暦2415年。外界と壁で隔離された都市ブレーニャでは、グッドチャイルド家による独裁政治により、市民は思想の自由を奪われています。反政府組織に属するイーオン・フラックス(シャーリーズ・セロン)は、組織の命令により、独裁者であるトレヴァー・グッドチャイルド(マートン・ソーカス)の暗殺を試みるのですが……。


いろんな人が、アニメや漫画の実写化のときに怒ったり批判したりする理由がわかりました。こんなことされたら黙っておけないです。こんなの『イーオン・フラックス』じゃないよ。アニメは不条理もので1話完結なので、1本の映画にするのは相当難しかったんだろうとは思うのですが、アニメにはないシーンの連続でひたすら戸惑いながら観ました。謎の日本風描写もアニメにはないし、イーオンに妹が、トレヴァーに弟がいるのも知らなかったです。アニメでもいましたっけ? けっこう何度も観ているアニメだから、そんな設定があったら覚えているとは思うんですが……。それから、アニメ版はすごいパースがついているので、せめてそこだけでも再現して欲しかった気持ちはあります。

一方で、まつげでハエを捕まえるところとか、キスして情報を受け渡すところとか、ちょっとだけアニメの表現も入ってはいるんですね。入れておかないとアニメの実写化の意味がないからでしょうね。また、トレヴァーの変態っぽさが薄く、なんならほとんどないと言っても過言ではないです。アニメのトレヴァーは女性の脊髄を弄って快感を与えようとするようなド変態なんですよ。

これはもう、アニメとは別物だと受け止めるしかなく、そういうふうに考えて観ても面白くはないという、残念な映画でした。『イーオン・フラックス』でイーオンが生き延びてどうするよ……ちょっと……。

というわけで、アニメ版の紹介をしますね。DVDボックスが、中古ですが2,800円ちょっとで買えるので、ご興味持たれましたら是非。リンク先はAmazonです。

イーオン・フラックス

Aeon Flux/監督:ピーター・チョン/アメリカ

1991年に5分程度の短編アニメーションとしてMTVで放映され、のち1995年にシリーズ化されました。私はリアタイで観たわけではありません。で、ものすごく好きなんですけれど、何度見なおしても実は話がよくわかっていないんです。主人公のイーオン・フラックスは、独裁者のトレヴァー・グッドチャイルドの野望を阻止しようとしているけれど、追いかけっこしたかと思うとキスしたりもするので、おいおいどうした? ってなります。そこがいいんです。そしてイーオンはけっこうドジっこで、うっかり死んだりするんですね。ほとんど全話でイーオンは最後、死にます。釘を踏み抜いて高層ビルから落ちたり、麻酔液に浸かっちゃって動けなくて実質的な死を迎えたりするんですよ。

「話がよくわからない」というのは、「それぞれのエピソードで何が起こっているのかわからない」という意味ではなくて、「全体的を貫いている大きな物語がわからない」という意味です。これはもしかしたら、ないのかもしれない。というのも、1話から10話まで、ストーリーが続いているわけではないんです。3番目に放映されたエピソードは実は9話でした、とDVDのコメンタリーで言っていますし。だからまあ、あれ、『ドラえもん』みたいなものです。どこから見ても平気。第1話の『Utopia or Deuteranopia』は他のエピソードと比べるとそんなにおもしろくないので、私はいつも飛ばして見ています。

1991年に放映された短篇シリーズはセリフがなく5分程度なので、世界観を把握するにはちょうどいいかも。イーオンが落ちて死ぬ『Gravity』を貼ります。

Aeon Flux (1992).Shortsx01.Gravity from Flávia Cavalcante on Vimeo.

トレヴァーがいつもなにやらやろうとしており、イーオンがそれを阻止しようとするが死ぬ、というのが全話共通であるわけです。死なないときもありますよ。イーオンの任務はさまざまで、「神の暗殺」なんていうのも。イーオンはモニカという国のスパイなんだけれど、モニカ側のことは描かれないのでどういう国なのかわかんないんですね。

トレヴァーは他の女性といちゃいちゃしてイーオンをいらつかせたりする、女性だけでなく異形の者ともいちゃついたりします。イーオンはイーオンで他の男性といちゃついてトレヴァーをいらつかせたりするんです。それでトレヴァーがイーオンのコピーをつくって侍らせたりもする。面白そうでしょ?

私が特に好きなのは、麻酔液に浸かった建物からがんばって逃げようとする『Ether Drift Theory』、イーオンにつくりものの良心が植えつけられる『The Purge』、国境を越えようとする女がトレヴァーに脊髄をいじられて気持ちよくなる『Thanatophobia』、イーオンがループしてしまい完全に自分を見失う『Chronophasia』ですね。

パイロット版を貼っておきます。これはまだ制約のないときのものなので、死体も血の量も多いです。


パイロット版からほぼ一貫しているのは、イーオンが必ずしも正しいわけではない、というところです。イーオンはものすごく生活感がなく、普段の様子はわからないけれど、世界に対してどう考えているかはわかるんです。考え方の違いでトレヴァーと対立する話もあります。2人のうちどちらが正しいのかは、見る側の判断に委ねられます。正しさの別の面を見られるのが良いですね。もう一度、DVDボックスのリンク貼っておきます。

Amazon.co.jp: イーオン・フラックス オリジナル・アニメーション コンプリートBOX [DVD] : ピーター・チョン, ピーター・チョン: DVD

特典のインタビューで、監督ではない人が「イーオンは超危険な女だぜ! うかつに近づくと殺されるぜ!」とすごい目で語った直後、我に返り、おどおどと水を飲むというシーンが入っています。あんたラリってるだろ!

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