あなたのおすすめ映画、観てレビューします!第2弾『スワンソング』

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スワンソング

Swan Song/監督:トッド・スティーブンス/2021年/アメリカ

Amazon Prime Videoで鑑賞。年末に急に思いついた企画「あなたのおすすめ映画、観てレビューします!」です。配信(Amazon Prime Video、U-NEXT)にある映画の中で、「(私の)レビューを読んでみたいな……」とみなさんが思う映画をひろく募って、観て、感想を書くという内容です。
第2弾『スワンソング』は、ヒキムスビさん(@hikimusubi)からのリクエストです。初見です。

あらすじ:親友に死化粧を施す。

ネタバレしています。注意書きはありません。

かつて活躍し、今は引退して老人ホームに住んでいるヘアメイクドレッサー、ミスター・パット(ウド・キア)は、毎日が退屈だった。ある日、親友だったリタ(リンダ・エヴァンス)が亡くなったことを知る。リタの弁護士は、彼女の遺言により、パットに「死化粧を施して欲しい」と頼むのだが……。


ウド・キアを始めとする俳優陣の演技がとても細やかで、悲しい雰囲気の音楽も相まって開始20分くらいでもう泣いてしまいました。演出としては過剰なのかもだけど、悲しい音楽を聞いたら悲しくなってしまうので……。

パットは弁護士の依頼を一度は断るけれども心変わりをし、リタのもとへ行こうとヒッチハイクをします。トラックに乗せてくれた女性に対してパットが過去の栄光について語るとき、これはつらいなあと思いました。自分は昔すごかった、有名人の友達も居た、とパットは話します。これ、全く同じことを私も人に言ったりSNSに書いたりしてしまうんです。20年も前の話をいまだにしてしまう、本当はそんなことしたくないのに、昔の話なんて、誰も興味ないのに。ましてや自慢話なんか嫌われるだけなのに。話題がなかったり笑いが欲しかったり自慢したかったりで、つい。私べつに芸人じゃないから笑いを取る必要なんてないのにね。自慢なんてつまらないだけなのにね。

パットは旅の途中に何度も過去の話をします。老人ホーム住まいが長かったのか、街はすっかり変わっており、パットのことを知る人もちらほらとしかいません。かつて恋人と住んでいた家は取り壊され、パットがショーをやっていたゲイバーは今日限りで閉店、パットが吸っているタバコさえ「今どきそんなの吸う人いない」と言われたり。パットが過去の話をするのは、今の「外の世界」がどうなっているのかわからなくて怖いから、なのかもしれません。

でも、いつまでも過去にすがって生きることなんて出来ないし、現実は否応なしにその残酷さをあらわにします。そんな、「外の世界の残酷さ」に耐えられないのでしょう、パットはしばしば恋人との幸せな時間を振り返ります。若くして亡くなった恋人は、パットにたくさんの思い出を遺して逝きました。パットがすべての指につけている指輪は全部、恋人からの贈り物で、そのひとつひとつに思い出があるのです。

パットが恋人のお墓へ行ったとき。亡くなった恋人は、パットと一緒のお墓に入るつもりだったのでしょう、墓石にパットの名前も刻んであるんです。そのことをパットは初めて知りました。そして墓石を抱きしめるパットを見て、涙が止まらなかったですね……。さらに、パットが墓石に刻んである犬の絵とほぼ同じ柄のTシャツを着ていることに気づいてしまって、なんて悲しくて美しい映画なの……と……。私は映画で泣くのが好きなので、泣いちゃう=良い映画、ってなってしまってるんですよね。ちょろいんです。

私は親しい友人や恋人、家族を亡くした経験がありません。今後きっとそういうことを経験するだろうし(あるいは逆で私がみんなより先に逝ってしまうかもしれないけど)、映画を観てこんなに泣いているくらいだから、現実に起きたら耐えられるのかわかりません。怖くなってきた。私の人生、大丈夫かな。

パットの親友だったと思われるユーニス(アイラ・ホーキンズ)とベンチに座って楽しそうに昔話をしている、と思ったら、それが(おそらく過度の飲酒による)パットの幻覚だったとわかってしまったところで、あまりのつらさにいったん再生を止めました(映画を途切れ途切れに観ることを、良しとしない人もいるとは思いますが、鑑賞スタイルは人それぞれということで、どうかご容赦ください)。パットが見た子持ち男性カップルも幻覚だったし……。

パットが、「こうであったら良かったのに」と願った世界を見てしまっていた、でもそれは叶わぬ夢だった。この映画、本当につらいけど、私、こういうつらい映画めちゃくちゃ好きなんですよ。

ラストは我慢しきれず声を上げて泣きました、どうせひとりだからさ、泣いても大丈夫なのよ、誰にも見られないからね。この映画、去年劇場で観ていたら年間ベストの3位になったと思います(なお、2022年の年間ベスト1位『ニトラム NITRAM』、2位『マッシブ・タレント』です。2022年新作映画 洋画ベスト10&邦画ベスト10&劇場鑑賞映画ベスト10はこちら)。

ヒキムスビさんがこの映画を私に勧めた理由もなんとなくですがわかりました。ヒキムスビさんとは、親友というほど会ったりするわけではないのだけれど、細く長くの付き合いが20年くらいあるので、私のことよく知ってらっしゃるんですよね。これ、私が好きだと思ってリクエストしてくれたんじゃないのかな? 違うのかな。ヒキムスビさんと趣味がかぶるところが多いから、たまたま良いマッチングしたのかな? とにもかくにも、こんな良い映画を教えてくれて本当にありがとう……!!

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