6月0日 アイヒマンが処刑された日
June Zero/監督:ジェイク・パルトロウ/2022年/イスラエル・アメリカ
マスコミ試写で鑑賞。公開は2023年9月8日です。
あらすじ:火葬したい。
※ネタバレはありません。
ナチス親衛隊中佐でユダヤ人大虐殺に加担していたアドルフ・アイヒマン。終戦後、イスラエル諜報特務庁に身柄を拘束された彼は有罪判決を受けた。そして処刑が決まったが、遺体や墓がある状態だと英雄視されかねないため、どうにかして火葬することに。しかし、イスラエルには宗教的にも文化的にも、火葬をする習慣がなかった……。
今年、たまたま私がそういう映画ばかりを観ているということもあるが、ナチス関係の映画が結構ある。以下は私が現段階で観た今年公開のナチス絡みの映画。
- フリークスアウト/フリークスVSナチス・超能力対決! | * FRAGILE
- 『骨』『オオカミの家』/アリ・アスターが惚れ込んだ、チリの才能 | * FRAGILE
- ナチスに仕掛けたチェスゲーム/戦争の爪痕 | * FRAGILE
- アウシュヴィッツの生還者/どんな罪があるというのか | * FRAGILE
さて、アイヒマンに話を戻す。イスラエルでは深夜に死刑を執行することになっている。火葬をする習慣はないが、火葬にしないといけない事情もある。そんな中、焼却炉を作ることになった小さな工場にやとわれた13歳の少年や、工場に勤務する人びとなどの人生模様が交差していく。
アイヒマンは、他人から「火葬にしよう」と思ってもらえるだけマシというか、罪のない人を何万人も殺したような人物に、まともな(絞首刑さえまともに見えるほど、アイヒマンの行ったことは罪が深い)死とその後を与えるのすら贅沢すぎてためらわれると思ってしまう。ナチスであれば叩いて良いのか? と思うむきもあろうが、ナチスは人の道を完全に外れたので、叩いても良いと言うと語弊があるけど、悲惨な歴史を繰り返さないためにも、何をしたのか、その行動で何万人が亡くなったのか、どういう理屈で人びとが虐殺に加担していったのか、などを知ることは無意味ではない。
先日、コミックマーケットでナチスのコスプレをした売り子が話題になっていた。あれを「表現の自由」と言って擁護する人が多くいたことに、教育の敗北を感じた。彼らの中に「バーベンハイマー(Barbenheimer)」について噴き上がった人がどれくらいいただろうと思う。「バーベンハイマー」についてはこちら↓。Wikipediaだが、わかりやすくまとめられていると思う。
バーベンハイマー – Wikipedia
ナチスのコスプレは許し、「バーベンハイマー」に怒りを覚えることは、偏狭なナショナリズムなのではないかと私は思う。他国の事情を考慮しない人は多くいるし、私も他国の出来事を自分のこととして身近に感じるのは難しいが……。でもまちがってるよ。また、日本公開時期が決まっていない『オッペンハイマー』(2023年)の宣伝方法について勝手に考えて勝手に怒っている人とか見ると、なんか、自分の妄想に自分で怒っているわけなので、しょうもないなと私は思っている。悪い想像をして気分を悪くし、さらに怒りを覚えることは、言語化も出来ず、やり場のない、不安に似た感情を抑え込むのに良いのかもしれないが……。
話を映画に戻す。少年の心には何が残ったのか。自分が作った焼却炉で、「人間」を焼いたことについて。彼はそれをある意味で誇りとして受け止めたのではないかと思う。自分が携わった仕事がうまくいった、自分は正義である、と。彼はラスト付近でとても良いことを言うのだが、書くとネタバレっぽいので伏せる。
コンパクトながら、歴史の裏側を少しだけ観せてくれる、良い映画だった。